TORIKO

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CONCEPT
大阪梅田近郊に立地する我々の事務所ビル各階を使って、展覧会「TORIKO」を開催した。雨が降る中であったが500人もの人が訪れてくれた。この展覧会は、1997年の「HOUSE OF COLLABORATION」展に引き続いて、URBANFOREST Architects(芦澤竜一・石川学・KEN)と美術家・石川亮とが協同して企画・制作したコラボレーションの第2弾である。

今回の展覧会では、都市、社会構造において人間を吸いつける“引力”をテーマにし、その引力に対する人間の受動的側面と能動的側面を並列して提示することを試みた。ここでいう受動的側面とは、ゴキブリホイホイに捕らえられるゴキブリのように、欲望をもつ人間が、都市に顕在する誘惑・魅惑に捕まえられて、様々な状況の“虜(TORIKO)”にされていく様子であり、一方能動的側面とは、個有の意識を持つ人間が、制度化された社会に足を捕らわれながらも自分の感覚で状況を掴みとる“採り子(TORIKO)”として動く様子のことである。

我々建築家サイドは、“attraction<強制引力/潜在引力>”、美術家は“HOI-HOI「強力誘引粘着装置」”という作品を同時に発表するかたちをとっている。 展示空間として事務所ビル内の3フロアーに点在する空室を利用し、“attraction<強制引力>”“attraction<潜在引力>”“HOI-HOI<強力誘引粘着装置>”の3つの展示室で構成した。

「強制引力」とは、都市の各部でその存在を誇示する恣意的な力を指し、“attraction<強制引力>”は、都市生活者に働く強制的な引力を作品化したものである。 ここでは“わかるはずがない現状の描写と未来への安心感”の「象徴的存在」としての地図を題材としている。地図は決して現実の投影ではない地形、道路線形、建物形態そして溢れ返る記号によって構成されているが、人々はそこに描かれた情報の真偽を確かめることなく、この“地図”を頼りに行動する。今回たまたま舞台として選んだ大阪の中心地梅田区域の異なる年度の異なる用途の地図を積層して見せることによって、都市の虚像である地図がいかに人の意識や行動に対する強制力をもつか露わにしようとしている。

またこの地図を鑑賞するために、<attractive>+1というソファーを設置している。このソファー自体も人を惹きつけ、捕らえる強制力をもつものとして定義し、座った時の快適性を追求して、製作を行っている。この部屋で、人は座らされ、見させられ、信じさせられ、我々の仕掛けた強制力の“虜”になるという訳である。 「潜在引力」とは、あるひとりに働く街のあちらこちらに潜む控えめな力を指し、“attraction<潜在引力>”は、個人の価値観の可能性を検証した作品であり、100人以上の参加者の「フィールド/タイムワーク」の成果として発表している。

この「フィールド/タイムワーク」を簡単に説明すると、<強制引力>で提示する地図と全く同じエリアを、ひとりひとりにあえて情報を漂白した地図を片手にオリエンテーリング的に周遊してもらう。そこで自分の足跡を漂白された地図に描きながら、自分が惹きつけられる状況(潜在引力)を写真という手段で切り取り、そのエリアで自分が捕まえてきた引力マップを作成してもらうというものである。そして捕らえてきたつもりの引力が、本当に捕らえたものなのか、実はその引力に捕らわれたのかを問うための活動である。このゲーム感覚で行えるフォーマット化された表現に多くの若者が熱中しているようだった。

“HOI-HOI「強力誘引粘着装置」”は、ゴキブリホイホイの人間バージョンといえるものである。展示室を人間ホイホイとして仕立てるだけでなく、DMの発送からはじまり、展覧会の全過程を誘引化することで、人間が捕らえられる有様を露呈しようとしている。この「TORIKO」展を通じ、人々がいかに無意識のうちに様々な事物・状況に捕らわれているかを知る一方、個人がもつ多様な視点が、現存していることを知った。全てが選択可能であるかのごとく“自由”な現代社会でその選択が本当に自らに依るものか、そうでないかを見定めるには、制度化された構造を俯瞰する視点を持ちながら、自分を解き放ち、自分を信じるといった原始的な視点を取り戻すことが必要なのではないかと考える。





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